2009年12月20日日曜日

Unknown






こんなにも哀しい曲の溢れてるクリスマスイブを抱きしめたくなる




扉を開けた瞬間、「あ、寒い」、と思った。
当然だ。雪が降っている。知ってたけど。
それでも扉を閉めてしまった。
外に出てきてしまった。
アパートの階段を下りる。
ここで待っていればそのうち彼女に会えるかも、とか思ったが、やめておいた。
結局はそんな度胸もない。
みじめになるのを承知で、5分ほど前までいた部屋のあったかさを思った。
5分ほど前、ふいに鳴った携帯をしばらく見つめて、彼はぽつりと言ったのだ。
「江美ごめん、今日は帰ってくれる?」
彼が何を言っているのかすぐにわかった。
というか携帯が鳴ったあたりでもうなんとなくわかっていた。
窓の外を雪がちらついているのも知っていたけど、ちゃんと言うことを聞こうと思った。彼を安心させたかったからだ。
怒らせたくもなかったし、泣きたくもなかった。そもそも今日は、そんな気分でもなかった。
いつも通り遊びに来て、あったまりながら今朝買った雑誌でも読んで、しばらくしたら帰ろうかと思った。彼がよければご飯でも食べて。
そんなに毎日会っているわけではないのに、会いに来た日に限って彼女が来るという。でも別に、それすら珍しくなかった。
私は2番目だから。
それを承知で付き合っているのだからこういうときは大人しくすると決めたのだ。

今目の前にはうっすらと雪が積もり始めていて、なんか私、かわいそうみたいだとふと思った。思って、私はどうしたいんだろうと思い直した。
そしてすこし、苦笑した。

彼の部屋を出ようと玄関に立ったとき、扉の向こうの寒さをすこしだけ感じた。
そして、これからその寒い中を一人で帰る自分のことを思った。
思ったら少しだけ、泣きそうになった。
立ち尽くしている私を不審に思ったのか彼が声を掛けてきた。
「江美」
「うん?」
素直に応える。
「ごめんね」
「いいの」
わがままは言わない。でも、
「宏」
「なに?」
でも。

「今日、私、かわいい?」
不自然なくらい明るい声で振り向いてみる。
そこにはすこし拍子抜けした彼がいる。
「何だよ急に。かわいいよ」
そしてキスをもらう。それでよかった。それで、いいのだ。
そして私は、扉を開けて出てきてしまった。
雪の降っている外に。手を振りながら笑って扉をしめたりして。
でも、いいんだ。
いいんだ。
2番目でも、「来ないで」と言われるのが彼女でなくても、
私といるのが暇つぶしみたいなものでも、
「悪いけど別れてくれる?」とかいつ言われたっておかしくなくても。
今日がこんなに寒くても、雪が降っていても、
たまに褒めてもらえれば、私はそれだけでこんなにうれしい。
さくさく、という自分の足音を聞きながら、なぜか私はスキップでもしてみようとか思っていた。




雪の中ヒールを履いてスキップで帰れるくらいの褒め言葉を言って


カシミアのコートの手触り確かめて大切にされてみたくなる冬


(絵・短歌 安藤えいみ/ストーリー 藤野唯)







クリスマス直前ということで、えいみちゃんの短歌にストーリーをつけさせてもらって、さらにそれにえいみちゃんが絵を描く、というコラボを載せました。

えいみーの絵って大人っぽくて素敵だよね。質感といい。
今回の絵も冬っぽくてお気に入りです。
えいみーの絵が私のブログに貼ってあるなんて、ちょっと新鮮で不思議。笑

もうどこ行ってもクリスマスソングが流れる季節です。
昨日はファミレスで広瀬さんとか流れるから、ゲレンデ行きたくなっちゃった!


10 件のコメント:

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    なんていじらしい女の子なんでしょ。
    そういえば安藤さんの歌はそういう歌が多いですね。
    見事なストーリー化です。

    藤野さんならどんな歌も的確に切ない話にしてくれそうなので
    今度、僕の舞妓の歌とかストーリ化して下さい(冗談です)

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  2. SECRET: 0
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    せつない・・・。
    ほんとに見事なストーリー化だよ!
    最後の展開にやられました。

    ふじのさんとえいみーからの、一足早いクリスマスプレゼントだね。
    ありがとう☆

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  3. SECRET: 0
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    えいみーもここを見てくれてると信じて!
    題材になったヒールの短歌、本当にいいねえ。絵も寒色が素敵。
    ゆいちゃんのストーリーも、うらみつらみかと思いきや結局うれしくなっちゃうというオチ(?)がすごく好みです。
    全然背景は違うけど佐藤真由美さんの「人生の目的は兎をつかまえることじゃない」というエッセイをぽやんと思い出してそうだそうだとうなずきながら、ちいさなことで喜んじゃえる女子でいたいなあ、と思いました。

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  4. タツロー!2009年12月22日 0:24

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    コメントです。
    ようやくアップですね。
    僕が見たのは去年だったかな?
    ひとりで楽しむのが本当にもったいなかったです。
    去年見たときとはまた違った感覚があって
    何かしらんけど僕も成長したのかなぁと
    思いました。
    また色々とアップしたいね。
    お疲れ様です☆

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    なつとさん

    コメントありがとうございます!
    なんか私の書く女の子たちはいつも2番目だったり報われなかったりします。
    なんでこんなのしか書けないんでしょう(笑)

    舞妓さんの歌は、なつとさんの歌の中でかなり好きだししかも切なくする自信がないので・・・
    でもそう言ってもらえただけでほんとうれしいです(笑)

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  6. SECRET: 0
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    イマイさん

    まさかお礼を言われるなんて思いませんでした。。。
    こちらこそありがとうございます☆
    ストーリーはほんとは2つあったんですが、えいみーから、歌のイメージを聞いてもう一つ書いてみたんです。
    それでこっちのが切なめで、たつ兄さんにもいいって言ってもらえたのでこっちにしました。
    気に入ってもらえたら嬉しいです。

    さて、今度はおすそわけです。
    今日明日にでも

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    こゆりさん

    ありがとうございます☆
    普段ならかんぺきにうらみつらみになるであろうところを、私もえいみーの短歌に救われました(笑)
    最初は「スキップだしなあ・・・スキップスキップ・・・」と悩みながら書いた覚えがあります。
    でもそういえば、そんな不毛な恋にはまり込んでいるときって、小さいこともうれしいんですよね。相手がどんどん基準をさげるから(笑)

    早く目が覚めることに越したことはないんだろうけど、
    私は女の子なら1回くらいは経験していいと思う。いろんなもののために(笑)

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    たつ兄さん

    長い間見守ってくれてありがとうございました。陽の目を見られてよかった(笑)
    わたしも、去年書いたものだから結構恥ずかしくて直したくなるかなーとか思ったんですけど、なんか前に書いたものでもほんとに納得がいってれば後に読んでも大丈夫だったりしますよね。

    またいろいろとお世話になります☆

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    藤野さんらしいなと思いました。そして俺と藤野さんでは文章書いてる時に見てるものが全然違うんだなあとも。

    メリークリスマス!

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    くまさん

    コメントありがとう。
    人様の歌に何かを付け足すってとても難しいよね。
    えいみーとのコラボがんばってねー
    メリークリスマス。

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