2008年11月6日木曜日

Unknown

私は、その人のことが好きだった。
そばにいすぎて感情の境界線がよくわからなかったけれど、きっと大好きだった。
今はお互い恋人がいるけれど、
そしてそれゆえに前よりは会う機会がぐっと減ったけど、
やっぱり会うと安心してしまう。
彼にだけ恋人がいるときの私はひどかった。
他大の彼女がいるのに、同じ大学同士の私と彼は大学の時間ほとんど一緒にいて、
授業も隣やまあまあ近い席で受け、
課題も一緒に出しに行った。
彼女がいることは重々わかっていたけれど、
入学当時から一緒にいるもんだから、なんていうか、止まらなかった。
私にとっていちばん居心地のよいところがつまりは、彼の隣だったのだ。
そして彼女のわからないところも私ならわかるだろう、わかりたいという傲慢さもあったのだ。

そんな彼ともちろん何もなかったわけではなく、しっかりと「何か」はあった。
手を繋ぎ、抱きしめられ、
その少し先のことも1度だけあった。あくまで「少し先」で「1度だけ」。
だけどその1度だけで私の心は折れた。
今までにくたらしく、ずうずうしく隣に居続けた私も、折れてしまった。
彼が嫌なわけではなく、
彼女がいる人とそういうことをすることの重さに、現実としてぶつかってしまったのだ。
それくらい私は弱かった。
その翌日はがんばって隣の席で授業を受けたけれども、
やっぱりなにかに無理があったせいか、疲れただけだった。

それから少し時間が経って、また私は彼と元通りになる。
そうやって、「何か」を越えては、ふたりして知らない振りして無理して笑って、いつのまにかまた力を抜いて隣にいるのだ。
彼にとってはずっと妹だっただろうけれど。
これから先、
きっと別々の人と結婚して、子供を生んで、
それでもたまに会うときには、この安心する感覚は忘れない気がする。

寒い寒い冬の夜、上着を掛けて肩を抱いてくれたことや、
繰り返ししては笑っていたくだらない話を忘れても、
あの安心感だけは。




あの星がなかったらその引力で 結婚できてたかな私たち



+++



短歌は好きな人に対して昔思っていたことで、
そしてかとちえの短歌教室「宇宙」に投稿した作品です。
短歌教室ではもうひとつの歌のほうが選ばれましたけど(笑)

今、そばにいる人のことがほんとに好きだけれど、
あの頃あの人のことが好きだったのもほんと。

長文て書くとつかれるにゃあ。

5 件のコメント:

  1. タツロー!2008年11月7日 23:20

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    おつかれさま!
    いいねー。これ。
    リアルで引き込まれる感じがする。
    短歌もピリッと効いてて素敵。
    シリーズ化して下さい(w

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  2. 安藤えいみ2008年11月8日 23:22

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    この短歌、好きだったので、
    ショートストーリー読めて嬉しかったです!
    お疲れさま♪
    ほんと。文章のリアルさが良い☆
    なんだろう。
    一言じゃ説明できない関係ってあるんもんねー。。
    せつなくなりました。

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    ��さかいさん
    ありがとうございます!さかいさんに褒められた(笑)
    つらつらと文を書くのはもともと好きといえば好きなので、
    シリーズ化、出来るように頑張ります…´∀`

    >安藤さん
    短歌、覚えててくれたのか!びっくり。
    嬉しいです、ありがとうございます☆
    ほんと、一言じゃ説明できないことばかりしてきました。。。

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    >あくまで「少し先」で「1度だけ」。
    いいです。
    忘れ得ぬ一文になりました。

    突然すみません。
    ショートショート読み切っちゃいました。

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    藻上さん

    こんばんは。
    こんな前の記事までありがとうございます。
    ほんとうに、そのとおりだったのです。


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