今年はみなさんがそうしているように、100首並べてみます。
前半のとか、もう去年のじゃないかという気分で眺めました。
100番目のお題「福」が、1首目に詠み込まれていて、
なんだかふしぎな気持ちになりました。

祝福をされたくて買う春キャベツ 今日はどんな話をしようか
暇だねと言い訳をして寝るふたり しあわせとは無意識であること
土曜日はよそ見をしよう公園にバドミントンを持って出かける
いつだって疑わない君とこのまま忘れていきたい感情もある
湖のボートに乗り移るみたいに抱きしめられて波が生まれる
見逃したサインも互いにあるだろうけれどめげずに寄り添っていく
2ヶ月に一度くらいはしおらしい女になろうと決意している
南北へのびる国道を横切る 明日には帰るきみの手のひら
あなたとの子供をいつか産むのだと気付かされ摂る多めの野菜
持ち寄って手をつなぎました 他の誰かの幸せを祈ったかけら
誰のためでもない空は青くってふたりは今日もふたり語を話す
穏やかなあなたが真面目になるときの「君(きみ)」を好きになれない私
元気ないときは君の部品になって一緒に悲しむからだきしめて
お互いの顔を見えないようにして接着しよう 今夜だけ
君にしか見せないブラウス着て眠る 着いたら起こしてね「マイガール」
それならば今連れてって 図書館を抜け出す初二人乗り記念日
しなくても済む言い合いを最近はちゃんと未然に防げてる(つもり)
東京に来てよかったあのアパートに最後に上げたのが君でよかった
押し殺さなくなっていたあの人の代わりに君に許されてから
まぐれだということを忘れるくらいどこにでもいる2人になろう
女狐と知ってもきっとまた胸に赤い痕をください、ひとつ
カレンダーに記す小さなめじるしの周期について話す昼寝前
やわらかい手のひら ほかの誰かには触らせたくないきみの魂
よこしまな気持ちも全部打ち明けよう ひとり相撲はもう終えたんだ
環状線沿いを並んで歩きつつ結婚したあとのことを思った
雨粒を丸くはじいて私たち今日はどこまで出かけてみようか
うしろからそわそわしてる心臓をなでる もうすぐ動きだすのね
眠ってるあなたに日陰をつくりつつ静かに生理を待っていた夏
存分に利用しあおう 泣くほどに誰かを追わなくたってもういい
天秤がかたんと鳴ってうなずいた 上乗せされる砂糖に負けて
昔見たSFのような花の降る中庭にいます きっと見つけて
半分にできない苦しみはそのまま一緒に美味しいご飯を食べる
親指をずぶりと皮に挿してまた同じだけみかん色になる肌
孫が居るころには今の毎日も可愛いものだったって言えるかな
どなたかが君を待ってる金曜は残業してもからっぽのまま
誰だって正義のヒーローだっていい「まだ間に合う」って説得してよ
奥底に届かなかった私よりもっと大事な人のねむる場所
泣くほどに聞こえなくなる空耳をなにもできずにただ見送るだけ
引き止めることを怠ろうとしてる 本当にもう行ってしまうのに
焦点の長すぎるレンズ 遠ざかるあなたにピントが合ってさよなら
書きかけのメールは捨てた 8階のビルから見る鉛色の東京
認められない学者みたいに中庭で誰も必要としない話を
銀箔の剥がれた向こう なつかしい空気を今は見ないふりする
ペットにも妻にもなれないけど今は名前を呼んで耳まで刺して
群集のひとりになりきれないだろう あなたの許しかけた目が見たい
解決にならないじゃんけん繰り返す 私たちは寂しいだけだから
もう泣けない思い出を蒸し返すならオレンジジュースぶちまけてやる
来世さえ約束できない結局はその程度の好きだった 寂しい
絶対にぜったいにもう叶わない願いを袋に入れて殴った
いい加減わかってよそんな虹なんて見たくないよ欲しいあなたが
私たちの番号は離れてしまった 強い風に髪をまかせる
この人のそばでお婆ちゃんになる いろんなものを見守る代わりに
ふたりとも生きているのに離れなきゃいけないことにぽかんとしてる
限りある戯れは終わってしまった ここからはもうその後でしかない
アメリカに居てもきみはきみだから私はただ会えなくてさびしい
あなたには水やりの義務はないのだし枯れてゆくのを見られたくない
秋晴れは新婚のきみを連れていく 私は台所で小豆を煮る
脳みそは今きっとすごくやわらかい こたつで思い出しているから
好きだって言えない病気をお互いに抱えたままで屋上ふたり
緑茶ハイ 流行っていた漫画の話 梅ハイボールまた緑茶ハイ
奴呼ばわりされたい きみに何もかもさらけ出すなんて出来ないくせに
今してるネクタイが欲しい完璧じゃない君のまま家に帰って
君だって仏さまではないでしょう 少しくらいは声を荒げて
恋人の次はふたごかもしれない その少しあと夫婦になろう
くらやみにまどろみきれず触れているあなたの手首の骨がいとしい
もしもまた会うときに疲れ果ててたらあなたの部屋で雛になりたい
匿名のまま抱き合って翌日に雨が降ったらさよならしよう
ドライフルーツの硬さたしかめつつ君が怒ったところを想像してた
雨が降り出す直前の離島から東京のこと眺めてみたい
何回か分の薬と涙とが染みた白衣で来る喫煙所
褪せてゆく思い出を止めようとして書いては消して歌っては黙る
紙コップくしゃくしゃにした ど田舎にいたって挫折するもんはする
反対に取り付けられた弁のよう引き止められず撫でられるだけ
あとがきに答えは載ってないのだと気づいている図書室 夏終わる
微笑みはいつだってすぐ取り出せずほら今じゃなきゃだめだったのに
スーパーできみの嫌いなパプリカをさわってたしかめて買わなかった
うらやんでうらんだあの娘の反対にしか進めないおんなじなのに
見えはしない指紋に親指を重ねてもらったペンで数式を解く
第5回くらいの一緒の飲み会で「梅酒だっけ?」と聞かれてうなずく
今夜はもう何も言わないで帰ろうきっとまたすぐ会えるのだから
あのシェフは助けることに決めてるのホテルが突然つぶれたとしても
弾丸は鈍く光を反射して 「あなたの胸で死にたかったわ」
雲のない空と冷気がよりそってあなたの孤独を教えてほしい
結局は千切ることなんて出来ずにそのへんに転がしておいた恋
抜けきっていない訛りはやさしくて 初恋の子の名前を聞かせて
わかってて踏んでしまった水たまり後悔はすっとしていてつめたい
綺麗だと言いたくなくて黙ってる あなたは今日もまっすぐなのに
防御にもならずに赤いマニキュアはただただ私を安っぽくする
君がもうなにか言おうとしてる 目の前のソーダの泡になりたい
降りつもりとける恐怖を毎日のように見ている 空の灰色
まだ君はゆっくり浸かっているだろう旅館の畳の緑はうすい
鮮烈なイチョウのきいろが追いうちをかける 誰かに見つけられたい
あなたとかあの子のことはもういいわシロツメクサの全部を知りたい
底までは見えないように表情を変えるあなたはここまで来ない
黒糖はやさしく甘い 泣きながらきみへのてがみを書き上げました
約束をしなければ会えなくなったあなたが交差点を右折する
使われず財布の中で眠ってた引換券の期限は去年
眠ってるあなたの腕にからまって基礎体温計咥える6時
この胸の痛みなんかじゃイコールの先にあなたは連れてこれない
またいつか集まったときそれぞれが幸福でいよう乾杯しよう